2024年プロジェクト「若者が政治について、より話し合えるようにするための方法」

【背景】

2024年度のKIPプロジェクト(以下「PJ」)は、社会問題に興味のある若者が政治について建設的に話せる場がなく、またアクセスしやすい状態にないという問題意識を背景にスタートした。私たちは解決に結びつく提案を行うことを目的として、まずは自分たち自身が「討論」してみることから、問題解決の糸口を探った。

【方法】

各PJメンバーが政治に関するテーマを設定し、討論会を行った。討論テーマは「選挙」「議員」「財政」「メディア」「教育」の5つで構成され、それぞれが次の議論につながる形で設定された。メンバー全員が主体的に関与できるようにするため、討論テーマの提案者がファシリテーターを務めた。討論会は月2回行い、討論に加えて、討論の振り返り、討論の仕方で良かった点と反省点を共有し、何を学んだかについて話し合った。以上のことを通じて、PJメンバーが実際に政治の話をすることで、なぜ政治の話はされにくいのか、どうすれば改善できるのかのヒントを探した。

【気づき】

8回に渡る政治に関する討論会を経て、PJメンバーからは次のような気づき・学びを得たという声があった。

①議論することにより、政治に対する関心がより高まった・考える意義を感じたという声。
「政治への諦めの気持ちがあったが、党議拘束や首相公選制について調べ、議論したことで、制度の一部を変えることとで意外と少しでも良い方向に導けるのではないかと希望を持てた」という声や、「政治の『分からない』、『知らない』部分により気づくことができ、もっと知るモチベーションが高まった」という声が聞かれた。

②政治的な話をする精神的なハードルは、想像よりも簡単に解消されるかもしれないという学び。
「意見の違いなどがあったとしても、思っていたより中立的なトーンで議論することができた」という声や、「自分は周囲の目を恐れていたが、この討論を通して不安が薄れた」という声が出た。

③一方で政治について話す際は、知識が要るだけでなく議論の方法にコツがいるという声。
政治の話は規模が大きく、意見に対し強い反発を受ける可能性のある内容も多い。そのなかで意見が対立したとき、どうお互いの考えを尊重し、話し合いを心地よく、テンポよく進めていけるかが、政治を話す場を作る上で重要な要素だという声もあった。

8回の討論を終え、全体的に政治を話すことへの抵抗感が薄まったという声が多かった。実際に友人や家族と政治の話をする機会がさらに増えたというメンバーも多い。腰を据えた話ではなく、それとなしに日常生活の中に政治の話題が入ることは、決して難しいことではないという希望をこのPJを通して持つことができた。

【提案】

今年のPJでは社会問題に関心のある若者が実際に話せる場が無いという問題意識に基づいてPJ参加者が実際に「討論」してみることで政治について話すことへの障害を減らす糸口を探った。討論を経て得た実感に基づき、私たち若者が政治についてより活発に話を交わせるようになるためのソリューションを、 「政治についての議論を活発化させるための新たな場のデザイン」と、「各自が今所属しているコミュニティでも政治の話をできるようになるための考え方のヒント」の二点に分けて提案する。

〇政治について話すための新たな場を作る際の提案
・社会問題・政治に興味がある人が対象。参加者は政治に広範かつ詳細な知識を持っている必要は無い。
・参加者は事前準備を行ったうえで参加する。当日はまず初めに全体で知識を整理し、議題に対して賛成・反対の立場を確認し、それぞれの意見を確認した上でディスカッションを始める。ディスカッションは政治についての議論に慣れていない人でも安心して発言ができるよう、6人程度の小グループで行い、各グループ内で意見を交換した上で、最後に全体で各グループで出た意見を共有する時間を作る、といった流れで進行する。
・このような場への参加を通じて期待される効果は次のようなものである。まず、各会への参加を通して政治や身近な問題について考え、自分の意見を整理することができる。また話し合いの場へ継続して参加することによって政治と社会課題の繋がりを認識し、政治が社会課題の解決に対する有効な手段だと理解できるようになり、政治への関心が高まるといったことが予測される。

◯今所属しているコミュニティでも政治の話をできるようになる、考え方のヒント
一般に、政治について話す、ということについて、政治に関するコミュニケーションの取り方がわからなかったり、意見の対立を恐れたりなどの心理的ハードルがあると考えられる。それらをなくし、政治に関する話が今所属しているコミュニティ内でもできるようになるためには、事前の準備と話す上での確認事項の共有が必要になる。準備と確認をした上で、話しやすい内容から徐々に話していくことができれば、政治の話はしやすくなると考えられる。

<事前準備>
・普段からある程度はニュースで情報収集をしておく。
・知識量や意見の違いにより一方的に話している、または口論になってしまった場合のため、話の止め方や変え方を考えておく。
・どのくらい政治的な話をして良い友人かを事前に見極めておく。

<確認事項>
・政治に対する考え方や価値観は人それぞれであり、考え方の違いが相手の性格を否定することはない
・議論で意見が変わることは悪いことではない
・政治について話すことで知識をお互い共有することができ、異なる意見に出会うことによって考えを深め、政治についての判断力・批判力を高めたりすることにもつながる
・民主主義を作り上げていく主権者として、政治について議論することは必要なことである

<話す内容>
・いきなり難易度の高い話題から会話を始めるのではなく、生活に身近であり、かつ政治と関係が深い話題を選ぶよう心がける。

【まとめ】

私たち若者が政治について、それを目的とした場あるいは日常生活の中でより活発に話すことができるようになることは、議論の中で社会課題のみならず、それを解決する手段としての政治への関心が高まり、知識や意見の共有を通じて自らの知見を更新・洗練することにより有権者としてより良い判断ができるようになることにつながるだろう。そうして若者の政治への関心を高め参加を促していくことは、ひいては政治において若者の声により耳を傾けられるようになることにも繋がっていくのではないだろうか。これが、本研究で我々が考えたソリューションである。

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