2022.8.20 8月フォーラム 「ウクライナの過去・現在・未来 −ウクライナ大使とともに−」

講師:Dr. セルギー・コルンスキー特命全権大使

【KIP8月フォーラムを開催しました!】

駐日ウクライナ大使のコルスンスキー氏のご厚意で、2月24日のロシアによる侵攻以降厳しい状況が続く中、ウクライナの現状とメッセージを伝えていただいた。会場には日本で現在ウクライナ難民として生活する学生もいらして、ウクライナの過去から未来までの幅広い質問への大使の説明を伺えた。ウクライナの人々に “Just leave us alone. We’re so sick.” と言わしめる歴史、私たち日本人の “You can be proud of what you can do from 8,000km away.” という役割、これからに向けて現状を見つめる視点 “until the next spring”。当事者の声を会場一体となって受け止めた。

【スピーチと質疑応答】

大使からのスピーチは、ウクライナとロシアの歴史はpsychologicalでspiritualな問題だという話からはじまった。1000年以上前、キーウを首都とする国・ルーシが誕生し、13世紀のモンゴル軍侵攻で支配の弱かったモスクワと袂を分かった時代から、帝国としてのロシアが、以降幾度もウクライナの自治権を奪い併合しようと手段を選ばずにきたと、解説していただいた。20世紀以降もなお、村ごと壊滅するまでの飢餓に追い込む、知識人を虐殺するなど、どの時代も文化・生活を丸ごと消し去ろうとしてきた、という語気に圧倒された。ウクライナの土地の豊かさ、 “We didn’t have an army. Why should we have it?” という姿勢、ロシアに対する “They must be normal. I doubt they can’t.” という信念といった、ウクライナで育ったコルスンスキー氏こその言葉を伝えていただいた。
質疑応答の中で、日本に対するメッセージもいただいた。イデオロギー上、話を通わせられない国々があるが、ロシアや中国のみならず人口の多い国はあり、民主主義も世界各地にある。日本がアジアで率先して制裁を続けることへの全面的な感謝と願いがあるそうだ。これは「民主主義とロシアの戦い」のため、少しの生活のロス(経済制裁によるもの)を受け入れてくれると嬉しい、という。 なお、今回のフォーラムではアラムナイの和田さんの呼びかけから、連帯の意思をできる範囲で示すため、有志の参加者は水色または黄色の服・アイテムを身に着けて参加した。講演台から名札、多くの参加者の服装に取り入れられ、部屋に入った瞬間から美しい色彩が目を惹いた。

【全体私感】

今回のフォーラムは、祖国の存亡がかかった時期に、いつ当日にスピーチができなくなるかも分からない講師が魂を込めて話してくださったと感じる。現状を重く受け止めることはもちろん、私にとってこれは2つのことを改めて考える機会になった。
1つは、戦争についてだ。日本では太平洋戦争時に学徒出陣が行われ、見送る女学生の中にも学生の中にも、敗戦を見込んでいた者も多く、出陣への懐疑心も存在したという証言が75年後の今、テレビ番組で放送された。幾度も戦地となったウクライナの歴史は島国日本と異なり、その故郷への想いの強さは想像力を精一杯働かせて考えなければならないと思った。「我々は軍隊を持たなかった。なぜ必要なんだ?お金がかかるじゃないか」この大使の言葉を、今後もずっと咀嚼していく。
2つ目の再認識事項は、改めて、ウクライナとその周辺、東スラブ民族の歴史を調べようと思う機会になったことだ。私は専攻の関係もあって古代から中世の世界史の知識に乏しいのだが、今起きていることを知るためには、背景の1000年以上もの民族の歴史を前提に入れなければならないと、直観させられた。フォーラム前の事前共有資料にはじまり、終了後に調べて知ったウクライナと周辺国の関係に深く納得することばかりであった。今後も歴史を学び続ける必要性を再認識した日だった。 多角的な視点を議論の必要条件とするKIPだが、今回深く伺えた「当事者の視点」を真摯に受け止め、人命を守るために日本人としてとれる態度を取り、話を聞き、行動したいと思う。

東京大学工学部2年 榎原 茉央

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