2022.7.9 7月フォーラム 「Japan-Asia relations」

スベンドリーニ カクチ氏

経歴
スベンドリーニ カクチ女史は日本アジア関係を専門として日本、スリランカ、インド、アジア各国でジャーナリストとして活動しているスリランカ人。スリランカコロンボ大学、上智大学卒業し、ハーバード大学ネイマンフェローでもある。現在イギリスのUniversity World Newsの東京特派員として活躍中。2022年6月まで外国特派員協会のプレジデントを務め、日本人の夫を持ち、英語、日本語、シンハラ語、タミール語を話す。

内容紹介

【スピーチと質疑応答】
7月9日に行われたフォーラムは、参院選投票を翌日に控え、さらに前日には日本全国を揺るがす元首相銃撃事件という情勢の中で行われ、参加者全員が自分ごととして真剣に日本の今後に思いを馳せる重要な機会となった。
中国の台頭、ロシア・ウクライナ戦争などの世界の動きは私たちの生活の端々に影響を及ぼしている。その中で、特に日本のアジアにおける存在、役割、期待されていることは何か、ということをカクチ氏にお話いただいた。
このように目まぐるしく情勢が変化する中、カクチ氏はアジアから見た日本について語る。
「日本がアジアに及ぼす大きな影響としては、投資、技術、製品、文化、アジアにおける植民地化の歴史、移民や出稼ぎ労働者、留学生の受け入れなどである。2000年代より、日本のODAは弱くなっていますが、教育やコミュニティビルディング、ガバナンス、防災など戦略的に行っている。また、日本の中小企業、生活に密着した安くて高度な技術をアジアは求めている。」
アジアの中で、特に中国と比べて地位が低下してしまった現在の日本は、ソフトパワーやガバナンス、現地の方の生活に入り込んだ支援、中小企業の技術などを提供し、日本はASEANや南アジアの国々と対等なパートナーシップを結ぶことが大切であるというお話が非常に印象深かった。
後半のご講演では、7月5日にウィクラマシンハ首相が国の「破産」を宣言したスリランカのお話が主題にあった。
まず、長い内戦を経て中国がスリランカへの影響を強めていった背景のお話から始まった。
スリランカは内戦の完全終結と、経済停滞打破のため、戦後復興資金を必要としており、海外からの経済援助が欠かせず、かつては日本が最大の援助国であった。中国はどんどんスリランカへの影響を増し、今やインフラ融資のトップも中国である。中国融資の条件は他の国や機関より厳しく、金利が2%のものもあるがなかには6.5%に設定されているものもあり、据え置き期間も短い。中国から14億ドルを借り、港湾のインフラ整備を進めたが、2017年には返済が行き詰まり、担保にしていた南アジア最大の港であるハンバントタ港の運営権を中国企業に99年間引き渡さざるをえなくなった。
質疑応答では、日本と中国やスリランカを比較する質問が出た。日本がスリランカへの影響を強めるには、中国と対立するやり方ではなく、日本独自の方法を模索し、明らかにしていく必要があるとカクチ氏は語る。さらに、女性活躍の進むスリランカと、未だビジネス・政治のトップ層の場で女性が進出できていない日本を比較し、日本の未来と抱える課題について考えを巡らせる時間となった。

【グループ討論と全体討論】
「日本はアジアのリーダーであるべきか、なれるのか」というテーマで討論を行なった。
アジアのリーダーになるには、アジアの中でビジネス・産業、政治的に安定していることが求められるという意見が出た。しかし、どのようなリーダーであるべきかについては、「経済的にパワーを持ち、他国を援助することがリーダーの役割である」、「ビジネスパートナーシップを結んで伴走することがリーダーの役割である」というように意見が割れた。東南アジア・南アジアとは平等なパートナーシップを構築しつつ長期的な支援を充実させるという意見が多く見られた。対中国・対韓国との競争意識、危機感、関係性をどう考えるかという問題提起もなされた。今後、経済的な競争をしていくために、ヘルスケアやガバナンスなど、企業経営を支えるシステム面でリードして存在感を示していくことが重要だという立場もあった。
グループ討論では、日本は今後アジアのリーダーになるべきという意見が大多数を占めた。日本の目指すリーダー像としては、上下の関係ではなく、経済的に伴走しつつ、各国の利益対立の国際協調を先導するものという意見が見られた。日本がアジアにおいてリーダーがなるべき、援助する理由は、「日本が支援を続けることで利益が返ってくることもあるため」、「日本の対外的な地位と信用を向上させるため」、「日本の民主主義的な理念や、ヘルスケアやガバナンスなどの基盤部分でリードするべきであるため」など様々な立場から活発な討論がなされた。

【全体私感】
学生のアジアに対する知見が限定的であることが浮き彫りとなったフォーラムとなり、スリランカの情勢が自分たちの生活に直接に関わりのないものとしてみなされているのではないかという各々への問題提起がなされた会であった。また、今後ますます変化するアジア・世界情勢の中、日本の特に経済的地位向上と東南アジア・南アジアにおける日本の存在感をいかに増していくか、平等なパートナーシップのあり方とは何か、日本独自の姿勢を見つけていかねばならないと痛感した。

(東京大学文科一類2年 金澤 伶)

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