2022.5.14 5月フォーラム「日本の発展を支える企業として (国鉄~JR東海のあゆみ~リニア中央新幹線)」

粂川 浩二氏

経歴
東海旅客鉄道株式会社(JR東海)人事部人事課長 京都大学経済学部を卒業後、東海旅客鉄道株式会社(JR東海)に入社。総合職として人事部に配属、その後大役とも言われる広報部東京広報室室長を経て人事部勤労課長に、そして令和2年より人事部人事課長に就任されて以来、現在に至ってJR東海を運営している。

内容紹介

【スピーチと討論】
粂川氏はJR東海の公共企業体としての変遷を国鉄時代から現在のリニア中央新幹線の建設に至るまでの流れも含めてお話くださった。まず、日本国有鉄道(国鉄)は第2次世界大戦後の1949年に発足し、1987年の分割民営化によって解散するまで存続した。当初は戦後の日本の復興に貢献したが、国会による意思決定がなされたための当事者意識の欠如、事業分野が現在よりも限られていたこと、職場規律の乱れなどから輸送需要の変化に対応できず、1964年以降赤字に転落し、負債額が増加していった。そのため国鉄は6つの旅客鉄道会社と一つの貨物鉄道会社に分割民営化された。JR東海のエリアは日本のGDPの約6割を占める巨大な経済圏であり、東海道新幹線といった所謂「ドル箱」をもっているため経営は安泰だと言われることも多い。しかし、分割当初は新幹線の技術は陳腐化し、設備の老朽化、輸送能力の限界など様々な困難に直面していた。そこでJR東海では経営を阻害していた新幹線保有機構によるリース料の問題を線路の買い取りなどによって実現し、新幹線の高速化・高頻度化の達成、品川駅・名古屋セントラルタワーズの建設などを通じて利潤を確保するとともに経済の活性化を行ってきた。現在ではリニア中央新幹線の建設によってさらなる発展を目指している。JR東海がリニア中央新幹線の実現を目指す理由は主に2つである。一つ目は東京・名古屋・大阪の巨大経済圏を支えるインフラとして南海トラフ地震などの災害に備えることである。リニアを作ることで輸送の二重系化を図り、経済の流れが止まらないように強化する狙いがある。もう一つは東海道新幹線沿線の活性化である。現在東海道新幹線は東京大阪間の人の輸送に注力しており、その沿線の中小の駅にはあまり新幹線を止めることができないが、リニアに東京大阪間の輸送の役割を映すことによって東海道新幹線はより多くの駅に列車を止めることができるようになる。それにより観光客増加などが見込まれると考えられている。
最後に粂川氏は人口集積とその経済効果の説明をされた。東京のような巨大都市圏を持つことで特にサービス業においては生産性向上効果があり、また人と人との出会いが多いことからイノベーションを生みやすい環境が作り出される。さらに人口規模の大きさからニッチ産業も多く生まれ、GDP向上につながるといえる。

【グループ討論と全体討論】
討論テーマは「JR東海が行う中央新幹線施策は人口集中を促す側面があるが、日本の将来を考えた時に人口集中の功罪は何であろうか」であった。私の班では国と個人という2つの視点から人口集中の功罪を考えた。確かに国全体で考えると規模の経済が作用してGDPを底上げすることにつながるし、分散するよりも資源を効率的に使うことも可能になるだろうと考えられた。しかし、個人単位で見た場合には大都市での生活は個人化が進み、孤独を感じる人も増える傾向にあるなど精神面での健康や幸せに関しては疑問が残るという考えに落ち着いた。全体討論においては、東京一極集中が進むと大都市の考え方が優勢になり多様性が損なわれるといった懸念や日本全体で複数の都市に集中させることによって災害に対する脆弱性などの東京一極集中のデメリットを軽減できるのではないかという意見が出た。粂川氏は講評において、人口の集中が東京なのか、都市なのかを具体的に定めたうえで議論が発散しないようにするとよい、また人口を分散させるにしても今のままだと人口は東京に集中していくので、具体的な方策についても話し合い、さらに人口分散したときのデメリットも考慮したうえで分散と集中のバランスを考えていかなくてはいけないと指摘された。

【全体私感】
人口の東京一極集中というテーマは語りつくされたように感じていたが、今回そのメリットについても具体的に話し合えたおかげでよりこの問題についての多角的な視点を得ることができた。また、リニアモーターカーには夢のある事業だと思っているため、その完成をとても楽しみにしている。

(東京大学 文科1類 2年 朝比奈 龍之介)

戻る