2022.4.23 4月フォーラム「暮らしのサステイナビリティ~持続可能で脱炭素型の地域とライフスタイル~」

浜中 裕徳氏

経歴
2007年より2017年まで(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)理事長を務め、現在は同IGES特別研究顧問及び2005年より(一社)イクレイ日本理事長。 1967年東京大学工学部都市工学科卒業。1969年厚生省(当時)入省。1971年より環境庁(当時)に設立メンバーとして勤務し、大気・水質保全、環境影響評価等の環境政策分野で活躍。また、京都議定書をはじめとする政府間交渉に携わる。2001年に環境省地球環境審議官、2004年に環境省を退職。2006年から2008年まで京都議定書遵守委員会共同議長及び同委員会促進部議長を務め、当時、その世界的存在の京都議定書作成への貢献を知らない人はいないとまで言われている。

内容紹介

【スピーチと討論】
浜中氏のご講演では、気候変動の問題と、環境・資源・エネルギーの持続可能性についてご説明頂いた。IPCC AR6では2021年に人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させたことに疑う余地はないと断言している。人類の繁栄が、自然資源や生態系に悪影響を及ぼす時代となり、例えば繁栄を支えてきた農業もその基盤が掘り崩されようとしている。興味深いことに、先進国と発展途上国の環境問題に対するとらえ方は幾分異なっていた。1972年ストックホルム国連人間環境会議では、先進国は環境汚染が深刻化し、国際協力による環境汚染の改善を主張したが、発展途上国は貧困脱却、発展のための国際協力を主張した。したがって環境か、開発かどちらかを選択するのではなく1987年「持続可能な開発」が提唱された。過去に起きた日本の公害問題では、公害の原因者と被害者が存在し、原因者が責任を負うという理解しやすい構図であり、公害問題に対する国民合意形成もしやすかった。しかし現在は下流ではなく上流部分、つまりモノを生産する段階にも目を向けることも大切であるとご教示頂いた。複雑化した環境問題に対応するためには社会システムの改革が重要である。企業のトップが製造プロセス改革や公害環境対策を行う、行政が環境、または開発に着目するのではなく様々な関連分野の統合的推進、消費者・市民のこのような問題解決への積極的な参加、学習等が必要であるとお伺いした。
現在、温室効果ガス排出削減は行われているが、世界の排出量は依然増加しており、気温上昇を1.5℃に抑制する状況にはまだない。COP26ではゼロエミッションを目指しているものの、途上国を含めてGHG排出削減を目指すには、先進国はより積極的に削減しなければならない。脱炭素社会・経済への移行のためには、自治体や企業の取り組みだけでなく、消費者の選択、消費者の取り組みも大切であることを強調されていた。 質疑応答の時間では、各国の二酸化炭素排出量が本当に信用できる値であるのか、国の成長を目的として政策を進めた場合、環境破壊につながることもあるのではないかなど深い議論が行われた。

【グループ討論と全体討論】
討論テーマは「暮らしのサステナビリティに向けて「1.5℃ライフスタイル」への転換をどう進めるか」であった。ライフスタイルカーボンフットプリントの現状、と家庭の消費に伴う排出をどのように減らすかについて主に食、住居、移動のいずれかに着目して議論し、私達に何が出来るか、どうすべきかを考えた。私の班では住居に着目し、消費者のエネルギ―の選択方法に着目した。カーボンフットプリントの低い再生可能エネルギーの利用を推進するためには、エコポイント導入による金銭的動機付け、また教育による国民の環境問題に対する問題意識の向上が大切と考えた。行政の取り組みや、消費者による選択に関して主に話し合ったが、浜中氏の総評の中で、断熱材が施された家屋の購入など、消費者の行動に関する新たな視点も提供された。他の班では食に注目し、食品のカーボンフットプリントの可視化、フードロスの削減、ヴィーガン食を身近なものにする等、カーボンフットプリント削減のために何が出来るかという視点も共有され、闊達に議論が行われた。浜中氏は総評にてカーボンフットプリントの表示を消費者の行動にどうつなげるかなど鋭いご指摘を頂き、これを機により深い議論が出来ればとのお言葉を頂いた。

【全体私感】
今回のフォーラムでは、環境問題という壮大なテーマの中で、カーボンフットプリントに着目し、自分たちの生活にひきつけて、何が出来るかを考えた。環境問題をより身近なものとしてとらえる良い機会になったと感じた。

(東京女子医科大学医学部4年 小川 真依)

戻る