2022.10.15 10月フォーラム 「岸田内閣の優先的政策課題〜外交を中心に」

講師:四方敬之内閣広報官

略歴

1986年京大法卒、 ハーバード大学ケネディー行政大学院修士(MPP)。 1989年在米国日本大使館プレス担当官を皮切りに、1999年にOECD日本政府代表部一等書記官、2012年に在英国日本大使館政務担当公使、2018年からは駐中国特命全権公使、2019年には米国公使として再度米国へ赴任。国内では国際報道官、北米局北米第二課長、国際法局経済条約課長、内閣副広報官、大臣官房人事人事課長、アジア大洋州局参事官、外務省経済局長を経て、2021年10月より現職。

【スピーチと質疑応答】

KIPは10月フォーラムの講師として、KIP理事であり現岸田内閣の内閣広報官を務める四方敬之氏をお迎えした。四方氏は、岸田総理の外遊に都度随行し、政権の理念や政策を広く世界に発信する役割を担っている。ご講演では、海外メディア等との交流を通じて新たに認識される日本の役割や、国際社会に対する日本の更なる貢献について知見を共有いただいた。その後、政権が掲げるデジタル田園都市国家構想について、その国際的展開の趣旨や方法を議論した。
まず前半の講演では、「岸田内閣の優先的政策課題〜外交を中心に」と題して、四方氏に岸田政権の外交政策を解説いただいた。岸田政権の外交は、「リアリズム外交」「インド太平洋戦略」「核なき世界」を主な柱として構成されている。安倍元総理が提唱した「インド太平洋構想」を継承し、同盟国のアメリカをはじめクワッドやASEANとの連携を引き続き強化する方針である。一方、ウクライナ侵略や台湾情勢の不安定化、北朝鮮のミサイル発射などにより浮き彫りになった日本の安全保障上の課題に対処するため、防衛費の増加を目指す。また、「広島・長崎を最後の被爆地に」という思いの下、被爆国でありながらアメリカの「核の傘」に守られている日本として、核軍縮の厳しさを認識しながらも国際社会に「核なき世界」の実現を訴え続けることが重要であると四方氏は語る。来年5月には広島でG7サミットが開かれ、核保有国と非保有国の橋渡しをアピールする絶好の機会であると感じるため、岸田政権の外交手腕に期待したいと思う。
参加者からは、ロシアによるウクライナ侵略によって浮彫となったエネルギーや食糧の安全保障、及び国連安保理の改革などに対する日本の取り組みについて質問が上がった。四方氏は、これらが喫緊の課題であること、また周辺国や関係国との交渉や調整が困難を極めるとの認識を示した。大国どうしの利害が対立する中で、国際社会の諸制度をより効果的なものとできるよう、日本として同志国の「輪」を広げる努力を続けて欲しいと感じた。 また講演では、デジタル田園都市構想が産業革命成熟期のイギリスで生まれたものであることが紹介された。当時は、工業化の進んだ都市に田園風景を取り込むようなコンセプトであったが、日本に輸入された際には東京一極集中の解消や地方創生が課題として認識され、地方がデジタル田園都市構想の主な対象となった。

【グループ・全体討論】

後半の討論部分では、講演を受け「日本のデジタル田園都市プロジェクトは、いかに国際展開できるか?」というテーマの下、議論が行われた。多くのグループが、日本の良さを海外に輸出し発展途上の社会と共に高みを目指す、という結論に至る一方で、「日本国内でデジタル田園都市国家を実現し、海外からの留学生が住みやすい環境、また海外企業にとっても働きやすい環境を作る」という提案をしたグループもあった。前者の案は、東南アジアなどの今後高齢化社会の到来が予想される国々に向け、少子高齢化社会における経済発展の方法を日本の教訓も合わせて考えていくものである。日本の技術や強みを海外に「輸出」することに繋がる一方、地理的条件や文化的素地の異なる他国に日本の方法論をそのまま適用することには注意するべきであるという意見も聞かれた。後者の案は、都市への便利なアクセスを確保しつつ、首都圏周縁に田園と融合した住みやすい街づくりを実現するものである。イギリス由来の田園都市構想と通じる部分があり、デジタル技術の普及と共に多様な生活形態を取ることが可能となるだろう。
全体討論では、民間・行政・教育・文化の多様な視点を取り込み、仕事の丁寧さや自然との共生の歴史といった日本の強みを活かしていく重要性が共有された。地域全体を巻き込み、行政主体だけでなく芸術家などの文化人も取り組みを主導することで創造性に富んだ街づくりも達成され得る。四方氏からは、「様々な主体が参画することでイノベーションが生まれ、日本の良さを発信する機会となる」旨を総括としていただいた。討論を通じて、日本の良さを発見し日本という存在を世界にアピールしていくという、外交の発想の基礎に触れることができたと考える。

東京大学前期教養学部文科一類2年 野中智貴

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