2021.4.24 4月フォーラムⅡ 「COVID-19による若者のメンタルヘルスへの影響」

4月のオンラインフォーラムでは、COVID-19による人々のメンタルヘルスへの影響について、OECDより瀧野様を迎えた。昨年11月のフォーラムにも講師として登壇してくださったことから、当時の内容を踏まえ、その後のリサーチで判明した事実やそうした現状に対する解決策について伺った。

瀧野俊太氏

経歴

東京生まれ。イギリスの中学・高校に行き、オックスフォード大学(哲学・政治・経済)を2018年に卒業。その後、一年ほど日本のシンクタンクAsia Pacific Initiative (2018-19)で働き、去年2019年9月からYoung Associates Programmeの一メンバーとしてパリ本部の雇用労働社会政策局で、Junior Counsellor, Directorate for Employment, Labour and Social Affairsとしてメンタルヘルスの研究に携わっている. また今年度のユースサミットY7の日本代表団のリーダーでもあり、経済トラックの担当者として新型コロナ危機を踏まえ、どのように労働市場と青少年政策を通じて経済と社会を再建できるかを研究している。

内容紹介

【スピーチと質疑応答】
瀧野氏からの講演では、まずメンタルヘルスに関する基本的な情報を簡単に共有され、、OECDによる調査で判明したコロナによる影響についてのデータを提示いただいた。その後、日本における状況をY7での活動からの示唆も含めながら伺った。
まず、メンタルヘルスに関する問題は、決して珍しいものではなく、かつ当該問題を抱えていることが即ち人生の幸不幸に繋がるというわけではないことについて説明いただいた。 さらに、コロナによってAnxietyとDepressionを抱えている人の割合が世界的に増加し、特に低所得者や小さな子供を抱える世帯を中心に、その他にも若い人や女性に色濃く影響が出ており、不平等や貧困への対応策がメンタルヘルスとも密接に連関しているとのことだった。
そして、関連する政策を考える際に基本となる考え方が、「予防・対処・促進」の3つであるという。 現在OECD諸国や日本において実施されている政策の大部分は「対処」に相当する。メンタルヘルスの悪化が見られる現状に対して、職場への働きかけを通じて状況の改善を図るというものだ。しかし、それ以上にOECDで重視されているのは、学校教育への働きかけである。コロナによるロックダウンで学校教育にも甚大な影響が出ている中で、途中でドロップアウトせずに教育課程を終えることは、よりよい仕事に就くことを後押しし、メンタルヘルスを良く保つことに繋がると瀧野氏は述べた。 日本においても、近年減少を続けていた若者の自殺率が上昇に転じている他、生徒たちの日常生活への満足度が他国と比べて低いことなどが問題視され、対処の必要性が高まっている。また、職場においてもストレスチェックテストなども導入されているものの、効果はそこまで高くはないとのことだった。さらに、日本特有の問題として精神科の病床数が多く、なかなか社会復帰が進んでいない現状が共有された。
一方で、Y7のアンケートやOECDの調査によって、日本ではメンタルヘルスへの対処が重要であること自体は漠然と認識として共有されてはいるものの、相談する環境がなく、従って認知自体もまだ低いレベルにあること、またもしクリニックに行ける環境でも周囲の目を気にして行きたがらない人が大半を占める現状が共有された。 そして、今後はメンタルヘルス悪化を事前に予防すること、その為に予め個々人に合う形での仕事や職場環境のマネジメントが重要であること、そして何よりもメンタルヘルスをよりよくしていくために、皆が意識することが必要だと言及された。

【グループ討論と全体討論】
テーマは「コロナ禍で何故日本の若者のメンタルヘルス危機状態が増加してきているのか、その対応策、予防策として私たちに何ができるのか」であった。その議論で共通して出ていたことは、やはり日本ではこうした問題を相談できる環境にないということだった。確かに大学などにも相談窓口のようなものはあるが、なかなか相談しようという勇気が出ないことが多く、それはまさに、メンタルの問題を告白すること自体が「甘え」と受け取られてしまいかねない、日本社会のStigma故なのである。そこで、SNSでの周知や学校での教育などを通じて、正しい知識を持ち、それは誰しもが経験しうることであるのだと理解すること、そして気軽に相談していいことだという雰囲気作りが大事であるという意見が複数の班からも出された。

【全体私感】
メンタルヘルスの問題というものは、人間である以上は常に付きまとう問題だ。例えどんなに普段あっけらかんとしている人であっても、必ず心のどこかには悩みを抱えて生きている。しかし、幸いなことに本フォーラムの参加者の多くは、大きな問題を抱えることなく、そして過去に抱えたことがあってもそれを乗り越えて生活している、「幸せ」な人々。しかし、瀧野氏曰く「メンタルヘルスの問題を抱えていない=幸せ」では必ずしもないことを踏まえると、果たして自分が今幸せに生きていると考える根拠はどこにあるのか、更には「幸せ」とは何か、非常に深遠な問題を突き付けているテーマであるようにも思えた。

(東京大学法学部4年 金田崇史)

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