2021.11.20 11月フォーラム「空を飛ぶことの価値〜空から日本へと運ばれる経済的インパクトとは〜」

航空業関連スタートアップ勤務 イ・サンヨン氏

経歴
2014年に東京大学経済学部を卒業後、三菱商事に入社、財務部にて勤務。その後、2016年からBCGに移り、主に製造業、金融業、消費財エンタメ業の顧客に対する、全社戦略やマーケティング戦略策定等に従事。現在はエネルギー業のスタートアップ、並びに、航空業のスタートアップにおいて、事業開発マネージャーとして勤務中。

内容紹介

【スピーチと討論】
最初に、航空機による空の利用について身近に感じられるよう、様々な統計データのランキングを紹介していただいた。筆者含め航空業界になじみがない人から見ると直感とは違った偏りになっていることが多く、興味深かった。例えば、空港の利用旅客数は、その空港のある国の人口よりも経済規模に比例する。日本の羽田空港は、アトランタ空港(米国)、北京空港(中国)、ロサンゼルス空港(米国)、ドバイ国際空港(アラブ首長国連邦)に次いで世界5位、なんと年間8500万人をこえる(なお、ドバイは他の空港と違って乗り継ぎによる利用が中心である)。また、異なる二地点を結ぶという意味での航空ルートを別にみると、意外にも国内線の需要が高く、またその需要も経済規模以外の様々な事情が背景にある。例えば、長らく1位になっているのはソウル〜チェジュ(済州)島を結ぶ韓国の国内線で年間約1000万人が利用しているが、ここまで需要が生まれる理由は、主に観光のための手段が他にないためである。東京〜新千歳、東京〜福岡、台北〜上海などがその例であるが、シドニー〜メルボルン、デリー〜ムンバイ、羽田〜伊丹などビジネス往来も多いルートは、陸路であっても鉄道だけでは需要がまかないきれず、上位にくることが多くなっている。
次に、今回の本題となる米国空域についてである。実は、横田、三沢、岩国、嘉手納といった全国各地の在日米軍基地の上空は、その大部分が、米軍機の訓練や輸送のためという理由で日本ではなく米国が空の管轄権(以下「制空権」)を持つ空域となっている。こうした空域は、場所による差はあるものの、おおむね国内線の民間機が安定飛行する際の高度2万フィートをカバーする高度に設定されており、一便ごとに米軍の事前許可を必要とすることから、日本のエアラインを拡充させる際に足かせとなっている。なお、日本上空における米国の制空権が設定されたのは1952年の日米行政協定が最初といわれるが、1970年代の新たな合意により、すべての制空権を米国側に委任することになった(この理由について、イ氏は沖縄返還に伴う代償であった可能性があるとしていたが、確かなことはわからないらしい)。

【グループ討論と全体討論】
今回のお題は、こうした空域の背景に加えてコロナ禍・オリンピック以前の状況を想定し、日本が制空権を取り戻すための交渉を擬似体験するというものであった。参加者は事前に官僚・政治家・地方自治体・日本の航空会社・市民団体といった担当を与えられており、当日は班に分かれてロールプレイを行った。
私の班では、米軍の担当と市民団体の担当との間で新たな国内線開設に反対したいという利害が一致し、「この交渉を進展させない」という結託が成立した。結果として制空権を取り戻すという形での結論を出すことはできなかったが、イ氏曰くそれなりに現実味のある展開だったようで、私自身も、官僚の担当として国内の反対勢力を説得しつつ米軍と交渉を進める難しさを十分に実感できた。 全体討論をみるに、他の班では日本のエアラインの発着枠を増やすことができていたようだが、オリンピックの間のみといった期間の限定条件や、別の地域での米軍空域の拡大といった交換条件を付けられていた。後者については、拡大した場合の基地費用を米国に負担させるという日本側の案をイ氏が高く評価していた。

【全体私感】
安全保障よりも優先できる交渉材料がなく、最初から米軍とは対等な立場に立っていないことを実感した。あまりマスメディアで聞かない話だが、多くの人に現状を知り関心を持ってもらう必要があると感じた。

(東京大学文学部3年 関 理々子)

戻る