2021年3月13日第12回KIPシンポジウム「緊急事態宣言下におけるリーダーと若者たち」

KIP初の試みとして、世界五都市を結ぶOn-lineシンポジウムが開催されました。第一部では2020プロジェクト「自然災害における『伝える役割』と『話す責任』」の報告、第二部ではパネルディスカッション「非常事態宣言下における若者のリーダーへの期待」と、グループ討論「緊急事態時に、日本のリーダーに強い権限を持つことを求めるか」を行いました。第二部のパネラーとしては、KIP会員から、バンコク在住の中村勇人氏、ニューヨーク在住の横井裕子氏、パリ在住の石野瑠花氏、ロンドン在住の遠藤彰氏をお迎えし、COVID-19感染拡大下における諸外国から、生の声を届けていただきました。会は質疑応答形式で進行し、盛況に終わりました。

パネラー
中村勇人氏 略歴 2016年学部卒、大手銀行のタイ法人で勤務。
石野瑠花氏 略歴 東京大学公共政策大学院1年、昨年9月よりパリ政治学院に留学中。
遠藤彰氏 略歴 2017年学部卒、現在ロンドン大学医学博士課程に在籍。
横井裕子氏 略歴 2018年学部卒、大学卒業後ニューヨーク大学に留学し、現在は国際NGOでインターン中。 (発表順)

第一部では、2020KIPプロジェクトメンバーより「自然災害における『伝える役割』と『話す責任』」と題した報告発表が行われました。自然災害に関する情報が人々によって受容・拡散される中で、風評被害が生じるメカニズムについて、高知研修や、1,000人以上に協力していただいたアンケート結果に基づき、教えていただきました。 風評被害が生じる過程では、①SNS、②マスメディア、③行政、④市民、という四つのアクター・媒体に着目する必要があります。オンラインコミュニケーションが主流になり社会の信頼関係が希薄になる中で、上記四領域を介した情報伝達に問題が発生することで、悪意が存在せずとも、風評被害が生じてしまうということでした。「自らも風評被害の加害者になりうる」という視点を常に持ちつつ、地域レベルでのリスクコミュニケーションを実施する重要性を感じました。

第二部の前半では、海外在住のパネラーの皆さんから、コロナ禍における現地情勢と、リーダーの対応についてお伺いしました。各国リーダーと日本のリーダーの対応を比較する中で、日本において求められるリーダー像が鮮明化されたように思います。

タイ在住の中村さんからは、国王を国家元首とするタイの歴史に触れながら、判断が素早く、厳格なタイ政府の対応について伺いました。外国人労働者という立場から、中村さんご自身は政府に対するご不満はないとのことでしたが、王室・軍も批判対象に加えた、大規模な反体制デモが発生しているという現状についても、教えていただきました。石野さんによると、フランスでは、マクロン大統領による発信の効果が大きいということでした。迅速な対応に加え、明瞭かつ共感を呼ぶ形の発信が評価されています。数字ベースで対応方針を打ち出しつつ、「危機を共に乗り越える」仲間意識の醸成に成功している点を指摘されていました。メディアによる報道も適切に行われているとのことで、リーダーによるクリアなメッセージ発信の重要性を感じました。遠藤さんには、イギリスのコロナ対策について、その強みと弱みという視点から教えていただきました。強みの一つには、研究イニシアチブが挙げられます。多様な立場をとる研究を比較参照することで、適切な対応に努めているとのことでした。また、メディアを主体とする情報発信の成功も指摘できます。切り取り報道が少ない点、情報精度が高い点は、非常に評価できると感じました。横井さんからは、コロナ禍のアメリカ社会において、人種や性別に基づく不平等が拡大していると伺いました。コロナ禍における経済難は、黒人とヒスパニックに偏ってみられます。また、12月中に発生した約15万人の失業者の内、100%が女性だったと教えていただきました。緊急時において、弱い立場にいる人がより弱い立場に置かれているという事実を数字で突き付けられ、衝撃を覚えました。

各国リーダーとの比較を通じ、日本のリーダーには、1.根拠に基づくスピード感ある意思決定、2.責任の所在の明確化、3.共感を生む情報発信が求められると感じました。一方で、単純な比較に終始するのではなく、独自の国民性や、歴史的背景に配慮すること、私権制限が持つ重みを意識する必要性もご指摘いただきました。

これらのお話しを質疑応答形式で伺ったのち、グループごとに「緊急時において日本のリーダーに権限を持たせるべきか?」というテーマで討論を行いました。多くの班では、権限を持たせるべきという意見が上がる一方で、リーダーの政治判断における妥当性を、事後的な審査の存在などを通じて、担保する必要性が強調されました。また、「リーダーに大きな権力を与えることに対する国民感情」、「権限とリーダーシップの相違点」といった視点から、活発な議論が交わされました。KIP理事のお一人である四方理事からは、迅速かつ的確な対応が求められる緊急時において民主主義を維持する方法を模索する必要性と、科学に基づいた公共政策を実施する必要性について、ご意見をいただきました。

海外在住の中村氏、横井氏、石野氏、遠藤氏から、現地での暮らしを通じた生の声を届けていただいたKIP初のオンラインシンポジウムは、「知日派国際人」を目指す私達が、改めて自国の政治について見つめる素晴らしい機会となりました。本年度は、コロナウィルスの感染拡大に伴い経済・社会的な変化が余儀なくされた一方で、このようにオンラインでお話を伺うことが可能になるなど、前向きな変化も生じたように思います。第12回KIPシンポジウムを成功裡に終えるにあたり、ご尽力くださった皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。

(早稲田大学政治経済学部2年 中山珠緒)

助成:公益財団法人 東芝国際交流財団
一般社団法人 伊藤忠兵衛基金

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