2023.5.21 5月フォーラム 「ポスト・ウクライナ どうなる世界、どうなる日本」

講師:高島 肇久氏 

【スピーチと質疑応答】

 日本、世界を舞台に放送・メディア業界を牽引なさってきた高島氏のご講演当日は、偶然にもG7広島サミットの最終日であった。冒頭で高島氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領が対面で首脳会合に臨んだ歴史的な日であることに触れ、自由主義を掲げる国々の首脳が集まり議論することは、世界を動かしていく原動力の象徴であり、困難な国を支援する動きを素晴らしいことであると述べた。  冷戦後、アメリカ一強の時代が続いた国際社会は、中国の台頭などの要因もあり、現在、「100年に1度の大変局」を迎えている。つまり、20世紀後半に見られた、アメリカが世界を牛耳る情勢ではなく、アメリカの意に反して世界が動き始め、新たな時代が訪れていることを意味している。  その後、ウクライナとロシアについて言及した高島氏は、侵攻の現状を、欧州諸国のウクライナへの軍事支援状況を含んだ分析を基にお話しくださり、両国が互いに牽制している状況であるとした。領土侵攻をするロシア側と、あくまで自己防衛のために戦うウクライナ側の双方の思惑が交錯する中、世界各国がどのように対応するか、今後の情勢についても触れてくださった。  質疑応答では、日本の今後の国際社会の中での役割や、報道では伝えられない「闇」の部分といった質問に、ご丁寧に回答してくださり、学びがより深まる形となった。

【グループ・全体討論】

 「メディアは中立であるべきか」という議論はグループ内でも全体でも白熱したものになった。「メディア」とはここでは何か、「中立」とはどういう意味か、そもそも「中立」は可能なのか、といった問いも手がかりとしながら、メンバーは自分の意見を構築した。しかし、各個人で捉え方が異なり、私のグループでも意見が二分する形となった。相対する立場が、具体例を用いて概念を相手に説明するなど、メディアが身近で私たちの生活と密接なものであるからこそ、当事者意識を持って討論に貢献した。全体討論でも意見は分かれたが、互いの考えをぶつけあうことで、より建設的な議論を構築できた。メディア(具体的にはマス・メディア)は公共性のために、事実を正確に伝えるという役割の視点、最終的には視聴者・読者が判断するという受け手の視点、FactとOpinionを分けて情報発信すべきという誠実などの別姿勢の視点、といった複数の視点を切り口に、テーマの核心に迫る議論が展開された。また、SNSに代表されるインターネット・メディアと従来のマス・メディアの対比も議論の上で鍵になったことも併記しておきたい。  総評として、高島氏からもご意見を頂戴できたが、詳細に分かりやすく、必要なデータを伝えるということ、受け手を中心で考えること、といった趣旨をお話しいただいた。

【全体私感】

 今回のフォーラムを通して感じたことは主に二つ。一つは、国際関係と平和について。KIPでも最近は、国際関係をテーマとした内容が多いが、それだけ私たちは「外」にも目を向ける必要性が高まっているということであろう(「国際人」として必要な素養である)。思想・民族・言語の違いから、国家間では争いが幾度となく起きてきたことは歴史を遡れば分かることである。同じ惑星に住む者が相手を殺めるという悲惨な出来事をなくすため、平和を追求する姿勢は、広島を訪れた首脳だけでなく、私たち一人一人が意識して持つべきことだと強く痛感した。  二つ目は、メディアの役割について。将来、メディア業界に携わりたい私にとっては、メディアの存在を熟考する機会となった。メディアが個人、社会に果たす役割は大きい。そんなメディアと如何ように付き合っていくか、そして運営していくか。送り手・受け手の繋がりの重要性に改めて回帰し、今後の学びを一層深みのあるものにしたい。  高島氏の一つ一つの言葉は大変重みがあり、身に沁みるものばかりであった。それは、高島氏自身が、激動の時代をご自身で体験し、ジャーナリストとして情報を正確に迅速に伝えるというご信念の表れであると感じた。私が特に印象に残った内容を紹介し、5月フォーラム活動報告の結びとさせていただく—戦争は人類が背負い続ける最悪のこと。「悪」を減らしていくことは永遠の課題だ。

東京大学理科I類1年 奥秋 秀太

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